第84章 一番甘くて一番酸っぱい果物

高野咲子に勧められた名刺を見つめながら、長谷川栞は相手のSNSを開いた。

――見られない。

アカウント名も、ただの『白鳩心理カウンセリングクリニック』。

胸の奥がざわつく。自分が「心に問題を抱えている」なんて、認めたくない。けれど、ハンドルを奪った自分は――正直、怖かった。

あれは、どう考えても自分らしくない。思い返すたびに、まるで別人のしたことみたいで、背筋が冷える。

迷いに迷った末、長谷川栞は相手のLIMEを追加した。

……ただ、いつまで待っても承認されない。数分待っても、反応はなかった。

中野航平は長谷川家に少しだけ滞在し、本来なら会社へ向かうつもりだった。だが気づけば車...

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